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最高裁判所第三小法廷 昭和28年(あ)2936号 判決

主文

原判決を破棄する。

本件を東京高等裁判所に差し戻す。

理由

弁護人石田寅雄の上告趣意第一点について。

論旨は、原判決が本件医薬品の数量を被告人の供述のみによって認定したのは憲法三八条三項に違反すると主張する。しかし原判決が維持した第一審判決は犯罪事実全体についてはその他の補強証拠を挙げている。そうして被告人の自白と補強証拠と相待って全体として犯罪構成要件たる事実を認定し得られる場合には、必ずしも被告人の自白の各部分について一々補強証拠を要するものでないこと、当裁判所の判例(昭和二三年(れ)第七七号同二四年五月一八日大法廷判決)の示すとおりである。それ故数量の点についてだけ自白のみによって事実を認定したからとて、第一審判決及びこれを維持した原判決に所論のような憲法違反ありとはいえない。論旨は理由がない。

同第二点について。

論旨は単なる法令違反または事実誤認を主張するものであって、適法な上告理由とならない。原判決の法令解釈には所論のような誤りはない。

同第四点について。

論旨は量刑不当の主張であって、適法な上告理由とならない。

同第三点について。

論旨は憲法三一条違反をいうが、その実質は単なる法令違反の主張に帰し上告適法の理由とならない。

なお、職権をもって調査すると、原判決は薬事法二六条一項、五六条一項の罪と覚せい剤取締法一五条、四一条(但し、昭和二九年法律第一七七号による改正前)の罪はいわゆる一所為数法の関係にあるものと判示している。しかし、覚せい剤の製造に関しては初め薬事法によってその取締を行い、その製造業を営もうとする者は、厚生大臣の登録を受けなければならないものとし、これに違反した者は三年以下の懲役又は三万円以下の罰金に処するものとしていたのであるが(薬事法二六条一項、五六条一項)その後覚せい剤取締法を制定し(昭和二六年七月三〇日施行)覚せい剤製造業者の指定制度を設け(同法三条、四条参照)、同法による指定を受けた覚せい剤製造業者がその業務の目的のため製造する場合の外は、何人も覚せい剤を製造してはならないものとし(同法一五条一項)、この規定に違反した者は三年以下の懲役又は五万円以下の罰金に処することとしたのである(昭和二九年法律第一七七号による改正前の同法四一条一項三号)。これ等の規定を考えてみると、覚せい剤取締法施行後においては、覚せい剤の製造は専ら覚せい剤取締法一五条一項、四一条一項三号によって取締ることとなったものと解すべきである。何となれば、覚せい剤取締法違反罪の刑は薬事法違反罪の刑に比し重いばかりでなく、覚せい剤の製造に関する限り、その取締は覚せい剤取締法違反罪の処罰によってその目的を達し得るに至ったものと認められるからである。

されば、これと見解を異にし、右の場合に薬事法違反罪の成立を肯認した原判決は法令の解釈を誤ったものというべく、従って刑訴四一一条一号により原判決を破棄し同法四一三条本文により本件を原裁判所に差し戻すべきものとする。

この判決は裁判官全員一致の意見によるものである。

(裁判長裁判官 島 保 裁判官 河村又介 裁判官 小林俊三 裁判官 本村善太郎)

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